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最初にひらめいたアイデアがいちばん成功しやすい【佐藤可士和(アートディレクター)】

  

 「最初にひらめいたアイデアがいちばん成功しやすい。いろいろ考えてこねくり回すと、

かえってコンセプトがぼやけたりしちゃう」

佐藤可士和×トップランナー31人』(集英社編集部編集英社

 

私は、人が心の中で思った瞬間に、そこへの道がつながると思っています。一番はじめに思ったこと、一番はじめに思い描いた映像が一番パワーが強いということです。

『大丈夫!うまくいくから』浅見帆帆子著(幻冬舎)P66

 

 

  まさ出版を起ち上げたのが、ちょうど3年前。43歳の誕生日を迎えたころでした(最初の名前は、オーダーメイドの本屋さん「BrownBear」)。この2年間、流されるまま、思いつくままやってきて、最初のコンセプトが何だったか、すっかり忘れていました。えーと、私は何をしようと思っていたんだっけ??

 

 最初にひらめいたアイデアがいちばん成功しやすい――。佐藤可士和さんの言葉が心に残り、もう一度ちゃんと思い出しておきたいと考えました。

 

 当時、3人目の子どもが生まれたばかりで、病気になることも多く、制作スケジュールがタイトな雑誌や広告の仕事に無理が生じていました。そこで、子どもが小さいうちは、締め切りのスパンが長い書籍の仕事に切り替えようと、数社の出版社に出向きました。

 

 そこで出会ったのが、個人や企業が自費で本を出版する「自費出版」の分野です。編集者の話を聞いて驚いたのは、その費用です。ページ数や装丁など、条件によって費用の差は大きいのですが、100万円以上も珍しくありません。それでも定年退職を迎えた団塊世代の需要が大きいとのことでした。

 

 ちょうどそのころ本屋で見かけたのが、ネット保険で革命を起こした社長の本。インターネットを使って価格革命を起こす。これだと思いました。自分の本を出したいという人は増えているものの、富裕層向けの価格帯。主婦や若い世代には手が届きません。 

 

 そこで、もっとハードルが低い価格帯の自費出版が実現できないかと考えたのです。こうして、2016年10月、自費出版専門の出版社を起ち上げました。「自費出版の価格革命」、これがコンセプトでした。

 

 一般的な書籍づくりには、大勢のスタッフが関わり、数多くの工程がありますが、それらを見直して大幅にカット。最小限のスタッフとシンプルな工程を考えました。流通も直接。地元の書店だけではなく、カフェや商店、イベントで販売します。

 大手出版社と競合することはありません。そもそもターゲットが異なるし、地域で人気が出た本を大手出版社につなげば、マーケティングの役割を担うこともできます。

 

 これだと思ったアイデアでしたが、当然のことながら、そうは簡単にいきません。1年目、数冊の本を作ったものの、制作費もスタッフ経費も、保育費すら出ない大赤字。しかも、私はライターの経験しかなく、本の装丁やITについてはド素人。満足いく仕上がりにはほど遠いものでした。華々しく活躍して、ギャラを稼いでいる友人ライターと会うと、「私はいったい何をしているんだろう、どこへ向かおうとしているんだろう」と消耗するばかりでした。

 

 こりゃいくらやってもダメだと、2年目はもうあきらめて、もとの雑誌ライターの仕事に舞い戻ることに。この年、ライター業と並行して進んでいたのが、夢見ヶ崎動物公園絵本プロジェクトした。