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夢叶うサードプレイス

「自分にとって一番気持ちいい瞬間」を把握し、それを中心に人生をデザインする。 四角大輔(執筆家・アーティストインキュベーター・森の生活者)

『etRouge(エ ルージュ)』(日経BP社)

 四角大輔さんをご存知でしょうか。元大手レコード会社のプロデューサーで、絢香、Superfly、平井堅CHEMISTRYといった有名アーティストを手がけ、ミリオンヒットを連発した伝説の持ち主です。その輝かしいキャリアをあっさり捨て、2010年1月にニュージーランドへ移住。原生林に囲まれた湖の畔で自給自足をベースとした “森の生活”をしつつ、一年の半分は世界中を旅しています。

 ニュージーランドに移住した理由は、ただひとつ。釣りで魚がかかった瞬間、手元にくるびりびりとした振動、全身をかけぬけるような強烈な衝動、それが「自分にとって一番気持ちいい瞬間」だから。

 四角さんは、子どものころから「今日一番気持ちよかったことは何か?」と自問自答するのが習慣だったのだそう。それは「魚がかかった瞬間」。だから、39歳で移住するまで、「仕事も、趣味も、ライフスタイルも、人生のすべてを」、ニュージーランド湖畔の森の生活を実現するためにデザインしてきたと語っています。

 「自分にとって一番気持ちいい瞬間を把握し、それを中心に人生をデザインする。この愚直かつシンプルな思考法こそが、ブレない自分を構築し、本当の幸せをもたらしてくれるのではないだろうか」。

 仕事、地位、年収、もの、家、車、そして趣味。欲しいものが現れるたびに、次々と袋にぎゅうぎゅう詰め込みたくなりますが、四角さんの考え方はいたってシンプル。私のイメージでは、こんな感じ。まず頭の中に真っ白な画用紙を広げて、「自分にとって一番気持ちいい瞬間」を、どーんと真ん中にでっかく描く。それを中心にして、仕事や住む場所、ライフスタイル全体がおのずと決まってくる。だから、プロデューサーの仕事を辞めたのは、大きな決断というより、彼にとってはごく自然な流れだったのでしょう。

 「夜が明けてきた。目の前には、ゴールドに輝く美しい湖面が広がっている。そして、今ぼくは圧倒的な幸福感に包まれている」。湖の夜明けの写真を眺めながら、私の眼前にも、四角さんが目にしている風景が広がりました。こんな幸福感に包まれる瞬間を一番大切にしたい。シンプルにそう感じました。

 家事や育児、仕事、毎日の生活をまわしていくことを考えたら、四角さんみたいに、身軽には動けない、とあきらめるのは簡単だけど、今自分が置かれた環境の中で、実現することは可能ではないか。「自分にとって一番気持ちいい瞬間」を把握し、それを中心に人生をデザインする。これをライフスタイルのコンセプトに定め、実践してみようと考えたのです。

 このコラムは数年前、日経BP社から発行されたフリーペーパーに掲載された小さな記事でしたが、切り抜いて大切に保管し「画用紙の中心」を見失いそうになったとき、取り出して繰り返し読んでいます。

 数年が経ち、あいかわらず毎日ドタバタで、やっていることは以前と大して変わらないものの、大切にしたい中心がしっかり定まっている。ただそれだけで、あれこれ思い煩うことがぐんと減った気がします。

 これさえあればいい、と頭の中がシンプルになり、その他のことは流れにまかせるといった感じです。

「今の中心は何か?」

いつも見失わないようにしたいです。